ホームページを見て回ると、著作権を侵害している事例を数多く目にする。例えばジュエリー関連の学術誌やジェムズ&ジェモロジーに掲載された図表や写真をスキャンして勝手に掲載している、という事例を挙げることが出来る。これらの中には著作権侵害を知りながら、いわば確信犯として掲載に踏み切っているというよりは、著作権という概念、あるいは知識の欠如からくるものが多いと思われる。また日常の業務として行っている行為の中でも、実は著作権の侵害に該当するケースがある。著作権専門の弁護士もいる程だから門外漢の私が記すのもどうかと思うが、多少なりとも著作権という概念の伝播になればと記すものである。
●雑誌の写真を勝手に利用したら著作権侵害
雑誌や他者のホームページに掲載された著作物(写真やイラスト、記述内容等)は、自分や家族が家庭内で用いるためにコピーをしたり、あるいは電磁的な複写をして用いることができる(著作権法第三十条)。しかし、それを著作権者の許可を得ないでホームページに掲載することはできない。第三十条の拡大解釈をして、個人的なホームページだから問題はないだろうとお考えの方もいるかもしれないが、この解釈は正しくない。営利・非営利を問わず著作者の「複製権」(第二十一条 )と「公衆送信権等」(第二十三条)の侵害となる。
第二十一条とは著作者だけがその著作物を複製する権利を有するという定めであり、第二十三条では著作者だけが公衆送信を行う権利を持つと規定している。つまり、インターネットで公開された他人の著作物は、閲覧者が当該ページにアクセスをするごとに“送信”される事となる為、例え私的なホームページであっても承諾なしに他人の著作物を掲載することはできないという訳だ。
●ホームページをプリントして、社内資料として配るのは著作権侵害
社内の資料作りのためにホームページをプリントする。あるいは学術雑誌の一部をコピーして配布する。社内に限定しての利用であるし、誰でも見ることが出来るホームページを印刷するのだから問題はないと思いがちだが、これらも著作権の侵害となる。第三十条で定める私的使用の範囲を超えるからである。このような利用方法は多くの方が経験しているものと想像するが、そのような法律であることには留意したい。
●著作権者の承諾無く引用できるケース
著作権者の了解無くその著作物を利用してはいけないと記したが、引用として利用が認められるケースが第三十二条に記されている。この条文では、公表された著作物を報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用できるとしている。著作権者の承諾は必要ないが、いくつか注意点がある。
まず、引用する著作物は公表されたものでなければならない事に留意したい。
また引用の際には、次の3点の要件を満たす必要がある。まず引用後の文章の主従関係。引用する他者の著作物はあくまで従の関係でなければならない。次にかっこでくくるなどして、引用者の文章と引用した文章とが明瞭に区別されている事も求められる。そして出典を明記することだ。
引用できるのは「報道、批評、研究その他」の場合とされている。では“その他”とは何か。宝飾業界関係者にとって最も興味があろう商品の販売促進を目的とするホームページやパンフレットへの引用は認められるのか。“その他”であるから明確な定義ではないが、一般に先に述べた引用の3つの要件を満たせば、販売促進が目的であっても引用は認められると考える事が合理的だ。
●国などの発表資料
この連載でも過去に総務省のインターネット白書から多くを転載したが、国、地方公共団体の機関、独立行政法人、あるいは地方独立行政法人が一般への周知を目的に作成し、その著作の名義の下に公表する各種資料等は、「禁転載」等の記載が無い限り、説明の材料として新聞などの刊行物に転載することができると第三十二条の2項に定められている。
仮に「禁転載」や「転載を禁ず」といった表示があった場合でも、大幅な引用はできないものの通常の引用は許されている。これは、「禁引用」との表示があっても同様である。
●保護期間が経過した絵画の写真
真珠で身を飾った近世ヨーロッパの貴婦人。このような絵画を真珠製品のポスターに用いるとしよう。折良く手元にあった雑誌に、バラを持つマリー・アントワネット(写真)が掲載されていた。連相の良い真珠のネックレスが品の良いアクセントとなっている。この写真をスキャンして用いる事を考えると、当然著作権への配慮が働く。
絵画の作者は1755〜1842年に生きたヴィジェ・ルブランだから、著作権の保護期間(別表:著作権の保護期間参照)は経過している。では雑誌発行者の許可は必要だろうか。
この答えが文化庁のウェブページにあったので引用する。
「発行者の了解は必要ないと考えられます。雑誌の発行者には、自分が発行した雑誌の紙面がコピ−されることに関して、著作権法上特別の権利は認められていません。また、雑誌に掲載するためにその絵を撮影したカメラマンも、平面的な絵画を平面的な写真に撮ることは複製にすぎないと一般に解されていますので、絵画とは別に写真の著作権は認められません。」
●著作権の取得方法
著作権とは著作物の創作等と同時に「自動的」に発生するものとされているため、著作権を取得する為の登録制度はない。しかしながら著作権に関する事実関係の公示などの目的で、「実名の登録」、「第一発行年月日等の登録」等の登録制度はある。窓口は文化庁著作権課。
■知的財産への配慮は宝飾品市場の盛衰に関わる
他人の労力によって購われた著作権を侵害する事は、現に慎まなければならない。そしてその精神は著作権に留まらず、他者の知的財産を尊重する精神へと広げるべきだろう。
「名菓ひよ子」の立体商標登録を巡る「ひよ子」(福岡市)と「二鶴堂」(同市)の審判(「ひよ子」の立体商標登録取り消しを二鶴堂が求めたが、特許庁はひよ子の立体商標を認めた)。松下電器産業がワープロソフト一太郎などに特許を侵害されたとしてジャストシステムを提訴した事例(ジャストシステムが高裁で逆転勝訴)。新作映画が劇場でビデオ撮影され海賊版DVDが流通した事件。昨年も世間の耳目を集めた知的財産を巡る係争が数多くあった。
宝飾業界に於いても対岸の火事でない。知的財産への配慮は重要である。ヒットしたデザインが直ぐにコピーされて出回るといった体質があれば、それは新たな創造意欲を殺ぐだろう。創造、創作意欲がなければ魅力的な商品は生まれ得まい。魅力的な商品を欠けばマーケットの拡大など思いもよらない。知的財産を尊重する成熟した精神は、実はジュエリー業界の発展にも寄与するのである。
参照
文化庁ウェブサイト
本稿はジェモロジスツニュース(発行GIA JAPAN)に出稿した弊社原稿を転載した。
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