宝石と産地
牛、豚、鶏と、とどまる事を知らない産地や飼料詐称は、宝飾業界に於いても人ごとではないだろう。
牛が国産か海外産かを識別するのに、あるエキスパートはニュース番組の取材に対し「見れば分かる」と述べておられた。その理由として脂肪の入り方(分布の仕方)が全く違うことを挙げていた。恐らく事実なのだろう。しかし、同じ国産の場合、どの産地で飼育された牛まで分かるものかと疑問に思った。実際、その後国内産の豚で、産地詐称(国内産には違いないが、産地が異なった)も報道された。こちらは伝票を確認して裏付けを取ったという。
宝石の場合はどうか。古くはダイアモンドに例がある。ブラジルで初めてダイアモンドが発見された頃、それまで唯一のダイアモンド産出国であったインドの業者が危機感を覚え「ブラジル産のダイアモンドは質が悪い」という噂を流布したが、ブラジルの業者はその風評被害を防ぐために、一度インドに輸出してから、インド産として販売したという。
近年ではミュージアムピース(博物館クラス)をはじめ、高価なルビー、サファイア、エメラルドには、産地証明書が付けられることがある。ルビーならミャンマー、ブルーサファイアならカシミール(インド)やミャンマー、エメラルドならコロンビアが高い品質(美しい色)の宝石を産するとして広く知られているため、それを証する書類があれば、取引上有利であることが理由だろう。しかし、ミャンマー以外でも美しいルビーは産出されるし、ミャンマー産であっても色に劣るルビーは多い。
従って、宝石の産地信奉は、衣類やカバンなどのブランド信奉の心理と同列と云える。
宝石の産地は「見れば分かる」という訳にはいかない。宝石の産地を100 %特定することは、誰にも出来ないと私は思っている。高い精度で判断する事も、世界でもほんの一握りの、きわめて一部のエキスパート集団だけが可能なものであろう。例えばサファイアの産地を特定するためには、世界中のあらゆる地で産するサファイアを、それぞれ多く検査し、データを持っていなくてはならない。通常の鑑別機関では、この一事をとっても不可能だろう。
産地の推定には、インクルージョンの識別が重要だ。特定のインクルージョンは、特定の産地から多く見られるといった傾向があるため、これらを多く知っていれば、絶対的な指標とはならないが、一助にはなる。
写真上は、エメラルドの中に見られるパイライト(黄鉄鉱)結晶の写真。これはチボール(コロンビア)やブラジルのサンタテレジーナから産するエメラルドに多く見られる。
Posted :2002/05/08
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