ジュエリーデザインの学び方について聞かれることがある。お聞きになる方の大半は地方在住の方で、都会のように手軽にジュエリーデザインを学ぶ学校に通うことができないというケース。
このような場合にジュエリーデザインを学ぶ選択肢のひとつは、良いテキストを手元に置いての独習だろうが、その数は限られている。
日本語でジュエリーデザインを学ぶテキストとしては、日本宝飾クラフト学院の「ジュエリーデザイン画を描く―実例300点に学ぶプロのテクニック」(下の4書の中の左上)や「宝石デザイン画セレクション―680点に見るジュエリーデザインの世界」(同右上)が数少ない選択肢の中にあって存在感が大きい。
しかし洋書に目を広げるともう少し選択肢が増える。一押しは「The Art of Jewelry Design」(下の4書の中の左下)と「Designing Jewelry」(同右下)。
私は何でも収集する癖(へき)がある。研磨石や結晶の他にも宝石関連の本を集めておりジュエリーデザイン関連の蔵書もかなり充実しているが、この二冊の洋書は出色(しゅっしょく)の出来である。
執筆はいずれもファッション・インスティテュート・オブ・テクノロジー(FIT:ニューヨークの州立大学)にてジュエリー・デザインを教えるモーリス・ガルリ(Maurice P. Galli)教授やヴァン・クリーフ&アーペルのデザイナー(執筆当時)、ファンファン・リ女史らによる共著。
「The Art of Jewelry Design」がリングとイヤリング中心。「Designing Jewelry」はブローチ、ブレスレット、ネックレスや他の装身具が中心。
フルカラーの両書には豊富な手書きで彩色されたデザインが満載されているのみならず、デザイン初心者の為にデザインの描き方を示すレイアウトが示されている。
ただし注意も必要だ。私はこの両書が初心者向けのジュエリーデザインのテキストになると考えているが、デザインが描かれる過程が懇切丁寧にワンステップずつ記されている訳ではないので、示されたサンプルからそれが描かれた過程を頭で思い描く力が必要となる。
初心者向教材としては前述の注意が必要だが、既に一定のデザイン技法を身につけた方にとっては、彩色する力あるいは表現力、そしてプレゼンテーションの方法を向上させるためのヒントを得ることができるだろう。
例えば女性の顔のシルエット上に描かれたイヤリングのデザインがあるが、そのシルエットの色は様々だから地金や宝石の色に合ったシルエットの色を学ぶことが出来る。これは洋服の色とジュエリーの色の相性にも関わるから、良いコーディネートにも示唆を与えてくれるものでもある。
顧客へのデザイン画のプレゼンテーションについても参考になる。デザイン画を顧客に提示する際は単にデザイン画のみを提示するのではなく、指輪ならば指のスケッチ、ネックレスならば胸元、イヤリングならば横顔のスケッチを合わせて記すことは多くのデザイナーが行っているだろう。しかし、それら指や胸元のスケッチはワンパターンになりがちだ。今回紹介している本には様々なプレゼンテーション法が紹介されているから、初心者はそのような方法があることを知ることができるし、ベテランは他のプロフェッショナルの仕事を印刷物の形でじっくりと考察することができる。
その他にも花をジュエリーデザインへと昇華する実例など、この図書の見方を記すときりがないが、圧巻は、手で彩色され様々な形状の地金や豊富な種類のカラードストーンを多数フルカラーで見ることができることだろう。前述の通り、初心者、プロフェッショナル、それぞれに多くの示唆を与えてくれる良書である。
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