アリゾナ州第2の都市ツーソン。毎年2月初めから中旬にかけて、この街では全米の宝石、化石や鉱物関係団体がほぼ一斉に見本市を開き、街中が一種独特の雰囲気となる。ホテルや展示場は云うに及ばず、多くのモーテルの部屋という部屋には世界中から集まった大中小の関係者が荷をほどいてベットの上でも店を開いている。来年に向けてそろそろ手配をしないといけないな、などと思っていたら、上高森遺跡のねつ造遺跡事件に触れた。そして、つい先頃読んだ、ナショナル ジオグラフィック日本語版、10月号の記事を思い出した。
これは、ねつ造された化石をそれと見抜けずに、同雑誌の昨年11月号で画期的な発見として掲載し、この品位ある雑誌史上でも稀に見る失態となった事態に関する調査報告である。ツーソンも舞台となっているので紹介したい。
事の起こりは1997年に発見された化石。場所は中国の東北部、遼寧省の採石場。ここでは良く化石が発見されるらしい。発見した化石は国に届けなければならないが、最高刑は死刑であるにも関わらず、生活の糧、または家計の足しに密売される事があるという。これらの化石のエンドユーザーは博物館等学術関係者や化石愛好家であるが、密売する際には、学術的価値は考慮されず、市場価値を高める努力がしばしば行われるという。つまりバラバラの断片として発見されたものならば、それをひとくくりにして持って帰り、自宅で糊を使い、農夫や採石場の作業員が組み立ててからバイヤーに売られると云うのだ。組み立てる際には、以前に拾った別の化石が使われる可能性も想像に難くない。
件(くだん)の化石も正に別個の化石が合成されたものだった。結果として出来たものは、恐竜の尾と鳥の身体と前足を併せ持った、つまり羽毛のある恐竜。不幸にしてアメリカ、ユタ州の恐竜博物館館長はこれを誤認し、ナショナル ジオグラフィック日本語版1999年11月号には、
「恐竜が鳥に...、進化の謎を解く"失われた環"(ミッシング・リンク)」
として掲載されてしまった。
なぜこの様な誤りが生じてしまったかという10月号の調査報告を読んで、ツーソンの文字が目に入った。売りに出されたのは昨年2月のツーソン。場所はモーテルのひとつだったと云う。価格は80,000ドル。
2月のツーソンはこんな偽物ばかりでなく、想像のつく限りの宝石や、鉱物結晶見本、宝石彫刻工芸品が廉価なものから超高品質品までで溢れかえっている愛好家憧れの地。是非一度行ってみましょう、ますます宝石が好きになりますよ。
2000年11月7日発行の[宝石学の世界]より
Posted: 2002/01/25