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■宝石学の世界□□★□□
□□□□□□□□□□□□………………………………………………Vol.386-20100330

お読み頂き、ありがとうございます。

▼ INDEX ………………………………………………………………………………………

1. ジュエリーの歴史6000年 [第3回]
2. ジュエリーニュース - 宝石サンゴ取引規制否決 - ワシントン条約
3. ジュエリーデザインを学ぶ教材

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1. ジュエリーの歴史6000年 [第3回] ∝∝∝∽∝∝∽∝∝∽∝∝∽∝∝∽∝∝∽∝∝

Understanding Jewellery
ジュエリーの歴史6000年 [第3回]

古代文明はエジプトやメソポタミアを中心としたオリエント圏で高度に発展しました
世界の各地で文明が発生すると、都市が建設され階級が生まれ、そこで生活する人々
を統率する人(王)があらわれます。王は民衆と区別を付ける為に、特別なものを身
につけることによって力を示すようになります。この特別なもののひとつにGOLD
(金)がありました。

金は地球が生まれた時から元素として存在していました。その元素が地殻変動によっ
て地表地殻に持ち上げられ、世界のあらゆる場所で鉱石に含まれ、或は砂金となって
私たちの前に登場してきました。

人類がはじめて金と遭遇したのは、川の中でキラリと光る砂金を発見したときではな
いでしょうか。それは何よりにも増して煌めき、神々しくあったのです。

金の特性は空気中で酸化せず、他の金属と化合せず、展延性があり、減りません。こ
のような特性は他の金属や宝石ではあり得ず、だからこそ古代に於いて金を征するも
のは世界を征服したことは歴史が証明しています。

銅を使い出したのはメソポタミアのシュメール文明の方が古いのですが、金を用いた
のはエジプトの方が古く初期王朝のナルメルの時には既に、何らかの金の細工品がつ
くられています。エジプトでは古くからナイル川上流とアスワンの南からスーダンに
かけたヌビア地方、第5急端の東側のプント(正確な位置は現代でも特定できていな
い)などが金を産出することで知られていました。

エジプトの金を語るとき、ヌビア地方を抜きにすることはできません。代々のファラ
オはたびたびヌビアに遠征を送り、金の管理と調達にエネルギーを費やしました。18
王朝のハトシェプストは、アモン神の神託によりヌビア、プントそしてシナイ半島ま
で遠征隊を送っています。

またエジプトの歴史の中で、テーベに都をおき25王朝を築いたピアンキはヌビア人に
よる王朝で、アッシリアに征服されるまで約80年ほど続きました。紀元前750年頃の
事です。古代エジプトの歴史の中で肌が黒い種族が王朝を築いたのはヌビア人だけで
すが、この頃になると金の産出量はかなり少なくなってきたようです。

古代の王たちは死ぬと必ず蘇ると信じ、自分の王墓に夥しい量の宝飾工芸品を運び封
印しますが、墓泥棒たちによって盗み出され、特に金製品は鋳潰されてしまいます。

現在残されているもので最高傑作とされるもののひとつに、古代エジプト第18王朝の
ファラオ、ツタンカーメン王(在位:1333-1324年頃/より厳密な表記ではトゥトア
ンクアメン[Tut-ankh-amen]という)の黄金のマスクがありますが、このマスクを超
えるものは新王国時代には沢山作られたことでしょう。

マスクに用いられた金は10kg、またツタンカーメンのミイラが収められていた棺は3
重になっているのですが、これに用いられた金の総量は110kgにのぼります。

ツタンカーメンから少し時代は下がりますが、第21王朝のプスセンネス1世の墓は、
ツタンカーメンが一部盗掘されていたのに比べ、完全無傷で発掘されています。この
墓から発掘されたプスセンネス1世の黄金のマスクは、ツタンカーメンほど豪華では
ありませんが、素晴らしいものです。

18王朝から20王朝の新王国時代、そして第3中間期にかけての21王朝あたりは、エジ
プトの美術・工芸が最も豪華に華開いた時代でもあります。しかし現存しているもの
は一体幾つあるのでしょうか。金は人間によって最高のものを作ったかもしれません
が、破壊され鋳つぶされてしまっているのです。

ジュエリーの素材としては、金が中心で、銀はほとんど使われていません。古代に於
いて銀は純粋な銀の形で産出される事は稀で、他の元素との化合物として見つかるこ
との方が多かったことによりますが、エジプトでは銀は何故か産出されなかったよう
です。

宝石類についてもエメラルド、ラピスラズリ、カーネリアン、トルコ石、シリカガラ
ス、ファイアンス(焼き物の一種で石英の粉末に油を加えて成形し、その上に釉薬を
かけて焼成)など青や赤の明るい色調を好みました。古代文明の中でこれほどまでに
色彩豊かな表現をしている文明は他にありません。

クレオパトラで有名なエメラルドはシナイ半島からもたらされ、ラピスラズリやトル
コ石はアフガニスタン地方から運びこまれました。

また新王国時代のツタンカーメンの胸飾りや眼に使われているシリカガラスは、エジ
プト南西部ギルフ・ケビールの北50キロでしか採取できないものでリビアングラスと
も呼ばれます。このグラスは隕石の落下の衝撃により、地表の岩盤が一旦持ち上がっ
てから加速度をつけて地表を押しつぶした時の圧力と超高温で岩石の一部が溶けでき
たものであるという説があります。

2006年吉村作治教授等が、ツタンカーメンのマスクを調査していますが、このレ
ポートでは、シリカガラスについては全く触れられていないようです。

さらにこのレポートでは純金のマスクの表面に微細(ナノメートル単位)の金粉にニ
カワを混ぜて、薄い膜として表面を覆っていると記しています。金粉をつくるには、
金の板をヤスリ状のものでごしごし削って粉末状にするわけですが、この時代に金を
ナノメートル単位の微細な金粉にすることは果たして可能なのか、疑問のあるところ
です。

エジプト王朝はその長い歴史の中でたびたび異民族の迫害を受けます。最初の侵入は
第2中間期の15王朝を創設したセム語族のヒクソスでした。その後第3中間期の25王
朝を築いたヌビア人による王朝です。

ヌビアはエジプト統一王国ができる以前から、たくさんの金をエジプトにもたらしま
した。エジプトは1万年以上前にスーダンやエチオピアに住んでいた民族が北上して
きて建国したとも云われています。またヌビア人はエジプト王国の中で唯一黒人系の
民族でもあります。

19王朝のラメセス2世は67年の在位中常時500人を越える女性を後宮囲い、100人を超
える子をなし、7人の女性を妃にしたと云われていますが、その中にクレオパトラや
ネフェルティティと並び歴史上の美女とされているネフェルタリがいました。彼女は
ヌビアの王女アイーダの生まれ変わりと云われています。

ネフェルタリを祀るアブシンベル小神殿がヌビアの方角を向いているというのも頷け
ますし、このような伝説もヌビアが金の豊富な産出国であったが故の事かも知れませ
ん。

その後アッシリアが侵入し、紀元前525年にペルシアのカンビュセス王によって征服
され、エジプトはペルシアの属州になりますが、それまでの2000年間エジプトの美術
様式にほとんど変化が見られないというのも大きな特徴です。

そして私たちが通常使っているブローチを除いた装身具類はすべてこの2000年間に形
成されているのです。 エジプトの装身具で特徴なのは、他のオリエント諸国が殆ど
ゴールド、或は色石を使っても単色で使っているのに比べ、実に多彩複雑に色石を組
み合わせ、豪華に仕上げている事です。ここまで色彩豊かな装身具は現代に通じるも
のがあり、私たちが大いに参考にする必要がありそうです。

やがて紀元前332年、マケドニアのアレクサンドロス大王が、エジプトを支配して
いたアケメネス朝ペルシアを撃破し、新しい首都アレクサンドリアを創設します。
プトレマイオス朝はマケドニアの王アレクサンドロスが建設した王朝で、ギリシアの
ヘレニズム文化の影響を受けながらエジプト文化を継承します。

後略

▼記事全文や関連図表・写真
http://weblog.gem-land.com/?p=351

by 増渕邦治(ますぶち くにはる)
http://www.buchi.jp/

※Understanding Jewellery ジュエリーの歴史6000年
http://weblog.gem-land.com/?cat=27


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2. ジュエリーニュース - 宝石サンゴ取引規制否決 - ワシントン条約 ∝∽∝∽∝∽

クロマグロの国際取引禁止案で注目が集まったカタールの首都ドーハで開かれたワシ
ントン条約締約国会議では、宝石ラバーの注目を集めた宝石珊瑚の取引規制に関して
も討議されたが、否決された。

1997年オランダ・ハーグでの同会議※でも一度は取引規制が決定された宝石サンゴは
総会での再協議で却下された経緯がある。 

宝石サンゴとはモモイロサンゴやアカサンゴなど。これらはテレビの海洋番組など
でダイバーが比較的浅い海域で撮影するサンゴとは異なり深海に生息するもの。

地中海沿岸では水深50m程度と比較的浅い海底にも生息する宝石サンゴだが、多く
は水深150mといった深海に生息するため、採取は金属製の大きなカゴで海底を無差
別さらうように行う。確かに環境にやさしいとは言えない方法が用いられてはいる
ものの、生息数など科学的根拠が明確に示されたとはいえない段階での取引規制は
適切とはいえず、今回の否決は妥当だろう。

※1997年オランダ・ハーグでの宝飾用サンゴの輸入規制撤回
http://www.gem-land.com/news/washington_convention_coral.shtml


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3. ジュエリーデザインを学ぶ教材 ∝∽∽∝∝∽∽∝∝∽∽∝∝∽∽∝∝∽∽∝∝∽

ジュエリーデザインの学び方について聞かれることがある。お聞きになる方の大半は
地方在住の方で、都会のように手軽にジュエリーデザインを学ぶ学校に通うことがで
きないというケース。

このような場合にジュエリーデザインを学ぶ選択肢のひとつは、良いテキストを手元
に置いての独習だろうが、良いテキストの数は限られている。

日本語でジュエリーデザインを学ぶテキストとしては、日本宝飾クラフト学院※の
「ジュエリーデザイン画を描く―実例300点に学ぶプロのテクニック」や「宝石デザ
イン画セレクション―680点に見るジュエリーデザインの世界」が数少ない選択肢の
中にあって存在感が大きい。

しかし洋書に目を広げるともう少し選択肢が増える。

一押しは「The Art of Jewelry Design」と「Designing Jewelry」。

私は何でも収集する癖(へき)がある。研磨石や結晶の他にも宝石関連の本を集めて
おり蔵書はかなり充実しているが、この二冊の洋書は出色(しゅっしょく)の出来で
ある。

執筆は両書共にファッション・インスティテュート・オブ・テクノロジー(FIT:
ニューヨークの州立大学)にてジュエリー・デザインを教えるモーリス・ガルリ
(Maurice P. Galli)教授やヴァン・クリーフ&アーペルのデザイナー(執筆当時)
ファンファン・リ女史らによる共著。

「The Art of Jewelry Design」はリングとイヤリング中心。「Designing Jewelry」
はブローチ、ブレスレット、ネックレスや他の装身具が中心。

フルカラーの両書には豊富な手書きで彩色されたデザインが満載されているのみなら
ず、デザイン初心者の為にデザインの描き方を示すレイアウトが示されている。

ただし注意も必要だ。私はこの両書が初心者向けのジュエリーデザインのテキストに
なると考えているが、デザインが描かれる過程が懇切丁寧にワンステップずつ記され
ている訳ではないので、示されたサンプルからそれが描かれた過程を頭で思い描く力
が必要となる。

初心者向教材としては前述の注意が必要だが、既に一定のデザイン技法を身につけた
方にとっては、彩色する力あるいは表現力、そしてプレゼンテーションの方法を向上
させるためのヒントを得ることができるだろう。

例えば女性の顔のシルエット上に描かれたイヤリングのデザイン。デザインがの後ろ
に描かれた顔のシルエットの色は様々である。つまり、地金や宝石の色に合った背景
色を学ぶことが出来る。これは洋服の色とジュエリーの色の相性にも関わるから、良
いジュエリーコーディネートにも示唆を与えてくれるのだ。

顧客へのデザイン画のプレゼンテーションについても参考になる。デザイン画を顧客
に提示する際は単にデザイン画のみを提示するのではなく、指輪ならば指のスケッチ
ネックレスならば胸元、イヤリングならば横顔のスケッチを合わせて記すことは多く
のデザイナーが行っているだろう。しかし、それら指や胸元のスケッチはワンパター
ンになりがちだ。今回紹介している本には様々なプレゼンテーション法が紹介されて
いるから、初心者はそのような方法があることを知ることができるし、ベテランは他
のプロフェッショナルの仕事を印刷物の形でじっくりと考察することができる。特に
ジュエリーデザインコンテストへの出品を考えている場合や高額な一品物用のデザイ
ン(つまりひとつのデザインに時間をかけてじっくりと仕上げる事ができる)に向け
ては多々参考になるに違いない。

その他にも花をジュエリーデザインへと昇華する実例など、この図書の見方を記すと
きりがないが、圧巻は手で彩色され様々な形状の地金や豊富な種類のカラード
ストーンを多数フルカラーで見ることができる点だろう。前述の通り、初心者、
プロフェッショナル、それぞれに多くの示唆を与えてくれる良書である。

▼これらの本のカバー写真や購入
http://www.gem-land.com/column/study_jewelry_design.html

※日本宝飾クラフト学院
http://www.jj-craft.com/

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※敬称を省略しました。

宝石鉱物小事典は国立国会図書館データベース(Dnavi)に収録されています。

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